交通事故による「むち打ち」の慰謝料相場・増額のポイント
交通事故(人身事故)で請求できる損害賠償金は、「治療費」「休業損害」など、その性質から様々な項目に分かれています。
その賠償金の項目の代表例が「慰謝料」です。
慰謝料は、被害者の方が負った「心の傷」を損害ととらえて賠償請求できる項目です。
骨折や打撲だけでなく、交通事故によりよく起きるケガのうち、むち打ち(頸椎捻挫)の受傷についても、慰謝料を請求することが出来ます。
しかし、むち打ちは、骨折などの様に、他人の目から見て、確実にわかるものではありませんから、注意しなければ満足のいく金額の慰謝料をもらえないおそれがあります。
このコラムでは、交通事故でむち打ちとなってしまった場合の慰謝料とその相場について、増額のための注意点と共に解説します。
このコラムの目次
1.慰謝料の基本と相場
慰謝料とは、交通事故により発生した精神的苦痛、つまり心の傷をお金で補償するものです。
とはいえ、心の問題とお金の問題は、本来は別のもの。しかも、心の傷は見えません。
これだけ心が傷ついたから、いくら支払えと言うことを、事故があるたびに具体的に証明することはとても難しくなります。
そこで、実際の賠償手続では、迅速で公平な賠償金の支払いをするために、慰謝料額の参考となる相場が作られています。
(1) 慰謝料の金額が決まるポイント
心がどれだけ傷ついたかは直接には明らかにできません。ですから、客観的な事情で慰謝料の金額を決める必要があります。
慰謝料相場で重要となる事情は、主に以下の通りです。
- 通院や入院の期間・実日数
- ケガや後遺症がある体の部位
- ケガや後遺症の内容や程度
- 治療の具体的な経過
(2) 慰謝料の種類|入通院慰謝料と後遺障害慰謝料
交通事故でむち打ちなどのケガを負った場合には、まず、通院や入院をしたことについての慰謝料をもらうことが出来ます。
「入通院慰謝料」や「傷害慰謝料」と呼ばれるものです。
しかし、ケガの治療が終わっても、首の痛みやしびれなど、ケガによる後遺症が残ってしまうことがあります。
後遺症が残ってしまったときには、「後遺障害慰謝料」と呼ばれる後遺症についての慰謝料を、入通院慰謝料とは別に請求できる可能性があります。
後遺障害慰謝料を請求するには、原則として、「後遺障害等級認定手続」で、後遺症が、損害賠償請求に値する「後遺障害」に当たると認定してもらわなければいけないことに注意が必要です。
[参考記事]
被害者請求のポイント~交通事故の後遺障害認定申請~
(3) 3つの慰謝料相場の基準
慰謝料の相場には、3つの基準(計算方法)があります。
どの算定基準を適用して算出するかで、慰謝料の金額は大きく変わります。
①自賠責保険の基準
自賠責保険は、法律により加入することが義務付けられている保険です。
よって、被害者の方に対して、最低限の損害賠償を保障しています。
②任意保険会社の基準
自賠責保険からの支払いでは補いきれなかった損害賠償をする任意保険会社が、被害者の方に提示する金額を計算する基準です。
保険会社が独自に設定しており、明確な数字は公開されていませんが、目安としては、①と比較して僅かに高額な程度です。
③弁護士基準
弁護士に依頼した場合の基準です。裁判所も参考にしているので、「裁判基準」とも呼ばれ、「赤い本」と呼ばれる冊子にまとめられています。
この弁護士基準は、①はもちろん②よりも高額になります。
よって、弁護士基準を採用して慰謝料を増額するには、弁護士に依頼の上で相手方保険会社に弁護士基準の採用を主張する必要があるのです。
[参考記事]
交通事故で後遺障害|弁護士に依頼すると慰謝料が増額する理由
さて、交通事故(特に追突事故)でよく発生する「むち打ち」でも慰謝料を受け取ることができるのは、最初に述べた通りです。
ここからは、むち打ちの入通院慰謝料・後遺障害慰謝料について、その計算方法や相場を解説します。
2.むち打ちの入通院慰謝料相場
入通院慰謝料の相場では、<入院や通院した期間または日数>が重要なポイントになります。
入通院期間や日数は、自賠責基準でも弁護士基準でも、入通院慰謝料がいくらになるかを計算する基礎となるのです。
(1) 自賠責基準によるむち打ちの入通院慰謝料
自賠責保険の入通院慰謝料の計算方法は、2020年6月現在、下の2つの計算式の合計のどちらか「少ない」方が採用されることが原則です。
- 4300円×「事故日から最終治療日までの通院期間の日数」
- 4300円×「実治療日数(実際に入院した日数、通院した日数)」×2
例えば、通院期間が180日、実治療日数が50日であれば、180>100(50×2)ですから、100日が通院日数になり、自賠責からの入通院慰謝料は4300円×100日=43万円となります。
ここで注意が必要なポイントは、自賠責保険会社から支払われる損害賠償金には、慰謝料以外の医療費なども含めて120万円まで、という上限があることです。
むち打ちであっても、通院回数が多くなりすぎると医療費が膨らみ、慰謝料の分について自賠責から支払いを受けられなくなるおそれがあります。
(2) 弁護士基準によるむち打ちの入通院慰謝料
「赤い本」による弁護士基準の慰謝料は、表にまとめられています。
タテ軸の通院期間と、ヨコ軸の入院期間が交わったところの数字が慰謝料の相場になります。
むち打ちの慰謝料の表(万円)<赤い本 傷害慰謝料 表Ⅱ>
しかし、むち打ちのために通院している期間がそのまま上の表にあてはめられるとは限りません。
通院が長期間かつ不定期になってしまったケースでは、実際に通院した日数(実通院日数)の3倍程度が、通院期間とみなされることがあります。
この修正がされるかは、症状、治療内容や通院頻度などの具体的事情次第です。
3.むち打ちの後遺障害慰謝料相場
後遺症についての慰謝料である後遺障害慰謝料は、「後遺障害等級認定」を受けなれば、原則として請求できません。
後遺障害の認定手続きでは、後遺症の重さに応じた「等級」が付与されます。
その等級次第で、慰謝料などの後遺障害に関する損害賠償の金額も変わります。
なお、いずれの等級にも該当しなければ、後遺障害慰謝料や逸失利益(仕事に支障が生じることによる将来の収入に対する補償)を1円も受け取ることができません。
(1) むち打ちの後遺障害等級
むち打ちについて後遺障害の認定を受けた場合、後遺障害の等級は、以下のいずれかになることがほとんどです。
- 12級13号「局部に『頑固な』神経症状を残すもの」
- 14級9号「局部に神経症状を残すもの」
|
12級 |
14級 |
---|---|---|
自賠責基準 |
93万円 |
32万円 |
弁護士基準 |
290万円 |
110万円 |
上記の表を見ると分かる通り、弁護士基準は、自賠責基準の3倍以上の金額を請求できます。
また、12級になるか14級になるかでは、自賠責基準であれば60万円程度、弁護士基準であれば180万円程度もの違いがあります。
12級では、むち打ちの自覚症状について、他覚的な医学的証明が必要です。
簡単に言うと、12級と認定されるには、むち打ちの症状を明らかにする画像検査結果の提出が必要になります。レントゲンだけでなく、たとえば、CTやMRIです。
筋肉や神経が傷ついていると画像検査ではっきりとわかれば、だれの目から見ても自覚症状の裏付けが取れます。
このような、他人の目から見ても症状があることが明らかになる検査結果などの証拠は「他覚的所見」と呼ばれています。
時間が経つほど、画像検査をしても症状の原因が分かりにくくなってしまいます。症状固定時の画像所見だけでなく、交通事故によって、その怪我が生じたことの所見も必要になります。より高い等級の獲得のために、早期、可能ならば事故直後に撮影するよう医師に依頼しましょう。
(2) 後遺障害の認定条件
認定審査は、被害者・加害者側の保険会社とは別の第三者機関(損害保険料率算出機構)が行っています。
14級、12級に限らず、後遺障害が認定されるには、以下のことが認められなければなりません。
- 後遺症があると医学的に証明されていること
- 後遺症と交通事故の因果関係が認められること
- 後遺症による労働能力の低下あるいは喪失が認められること
- 自賠責保険の等級に定められた程度にまで、労働能力が低下していること
4.慰謝料増額のためのポイント
むち打ちは、事故直後に異常が出ないこともあり、初回の通院が遅れがちです。
症状が他人の目に見えない・検査をしてもはっきりしにくいなど、症状があると明らかにするには難しい特徴もあります。
また、むち打ちが後遺障害の認定を受けるには、高いハードルがあります。
最後に、正当な金額の慰謝料を受け取るため・むち打ちの慰謝料を増額するために重要なポイントをお伝えします。
(1) 事故後1週間以内に病院で診察を受ける
交通事故の損害賠償請求をするためには、「交通事故が原因でむち打ちになったこと」、つまり、交通事故とむち打ちの因果関係の証拠を残すことが大前提になります。
主な証拠となるのは、医師の医学的な知見です。
しかし、初回の診察が事故から日が空いてしまうと、事故以外の原因があったと言われやすくなります。
ですから、事故にあったら、出来る限り早く病院に行き、受診しましょう。
特に、むち打ちでは、交通事故後数日経過してから痛みが生じることが珍しくありません。
- 医師に症状を具体的に伝える
- 傷病名の診断を受ける
- CTやMRIなどの画像検査を受ける
- 専門的な神経学的検査を受ける
これらの医療行為により、因果関係の証拠を作ることが出来ます。
CTやMRIは、他覚的所見として後遺障害等級を上げるために重要ですので、画像診断も早めに受けるようにしましょう。
(2) 定期的かつこまめな通院を続ける
入通院慰謝料は、入院・通院日数により変動します。
また、後遺障害と認定されるためには、事故後に初めて症状が出たときから、症状が継続していること・症状の内容が同じであること・症状がある体の部位が同じであることなど、症状の「連続性・一貫性」が非常に重要です。
通院を定期的に、こまめにすることは、入通院慰謝料の増額に繋がるだけでなく、その際に医師に症状を伝えつづけることで、症状の連続性や一貫性を医師に証明してもらえるようになります。
治療期間が短いと「軽症だったのだろう」と思われてしまう可能性もあります。
(3) 保険会社の打ち切り打診への対応に注意する
自覚症状が中心のむち打ちでは、症状の重さは、他の客観的な事情から推測されます。その事情の一つが、通院期間です。そして、むち打ちで後遺障害が認定されるためには、少なくとも半年程度の通院期間が必要です。
しかし、保険会社は、医療費などの支払いを抑えるため、被害者の方がまだ症状固定になっていない段階でも症状固定済みと判断する(治療費の打ち切りを打診する)ことがあります。
保険会社から、「もうそろそろ完治しているのでは?」「これ以上改善はしないだろうから、通院は不要だろう」と言われても、医師から通院が必要と言われているのであれば、通院を継続したほうが後遺障害の認定も受けやすくなる可能性もあるでしょう。
仮に保険会社から治療費の支給を打ち切られてしまったとしても、必要な治療だったと認められれば、一旦ご自身で立て替えた治療費を後から請求することも可能です。
ただし、必ず支払われるかは事案次第です。健康保険を利用して通院することも可能ですので、利用できるようであれば検討したほうがよいでしょう。
5.まとめ
むち打ちは、交通事故によるケガ及び後遺症の中でも特に多いものです。
しかし、症状を証明しづらいために、後遺障害の認定はもちろん、ケガに関する慰謝料の請求でも、思っていたよりも低い金額が保険会社から提示されてしまうことは珍しくありません。
入通院慰謝料の基準や、後遺障害等級認定の等級にしても、どうしても、具体的な事情次第で増額できるかはあいまいなのです。
交通事故に遭いむち打ちと診断されてしまった場合は、治療中でも出来る限り早くに弁護士にご相談し、サポートを受けてください。
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