自己破産手続き|破産管財人の否認権とは
自己破産手続では、債務者の借金が原則として全額免除される代わりに、債務者が持つ財産のほとんどが処分され、債権者に配当されます。
この「債務者財産の債権者への配当」を行うのが「破産管財人」です。
破産管財人には「否認権」という非常に強力な権利が認められており、債務者として、この否認権がどのような時に行使されるかを知っておくことは非常に大切と言えます。
この記事では、自己破産手続の破産管財人が持つ「否認権」について詳しく説明します。
このコラムの目次
1.自己破産手続の基本
自己破産は、支払不能に陥った債務者(お金を借りた側)が裁判所に申立てをして、自らの財産を債権者(お金を貸した側)に配当する代わりに借金を原則として全て無くしてもらう債務整理手続です。
自己破産手続により借金が無くなることを「免責」と言い、裁判所が免責を決定することを「免責許可決定」と呼びます。
自己破産の手続には、2つの種類があり、費用や手間が異なります。
①管財事件
冒頭で説明をした「破産管財人」が裁判所により選任される自己破産の手続が「管財事件」です。
破産管財人は、債務者財産の債権者への配当や、免責不許可事由(原則として免責をしてはいけないとされている事情)の調査などを行います。
②同時廃止
破産管財人を選任するまでもない場合、つまり、配当できるだけの財産がなく、また、免責不許可事由もない場合には、破産管財人を選任せず、手続自体も簡略化した「同時廃止」という自己破産の手続が用いられます。
一般に、管財事件の方が同時廃止よりも費用や手間などの負担が重いと考えられています。
[参考記事]
自己破産|同時廃止・管財事件になる基準とは?
2.否認権とは?
「否認権」とは、破産管財人が債権者への配当を確保するために、債務者が手続開始前に他人に流出させた財産を、流出先の相手から取り戻す権限です。
破産管財人は、否認権に基づいて、裁判をして流出先の相手から財産を取り戻すこともできます。
本来、債権者へ配当される債務者の財産は、裁判所の決定により自己破産手続が開始された時に、債務者が持っているものに限られます。
ところが、もし債務者が、配当される財産を減らすために、手続開始の前に「不当に」財産を流出させると、債権者に不利益が生じます。
自己破産手続は、債務者にとっては借金から解放される手続ですが、債権者からすれば支払いを受けられるはずの借金が回収できなくなり、大損害を受ける手続です。
にもかかわらず、債務者にいわば逃げ得を許すのは、あまりに不公平と言えるでしょう。
そのため、配当処理を行う破産管財人に、流出した財産を取り戻して債権者への配当を確保するための権限である「否認権」が与えられているのです。
3.否認権が行使されるケース
否認権が行使される場合は、大きく分けて、「詐害行為がされた場合」と「偏頗弁済がされた場合」に分けられます。
(1) 詐害行為がされた場合
詐害行為とは、将来の自己破産における配当手続で債権者に対する配当が減ることになってしまうと分かりながら、財産を不当に安く売却し、または、タダで譲渡する行為です。
詐害行為があれば、債権者以外の第三者に債務者の財産が流出してしまいますので、債権者全員への配当が減ってしまいます。
そのため、否認権の行使が認められるのです。
[参考記事]
自己破産の「財産隠し」はバレてしまうの?
(2) 偏頗弁済がされた場合
偏頗弁済とは、債務者が支払不能と自覚した後に、特定の債権者にだけ優先して返済をすることです。
裁判所を利用する自己破産手続では、債権者は公平に扱われなければならないというルールがあります。
これは、「債権者平等の原則」と呼ばれています。
偏頗弁済は、特定の債権者だけが、優先的に返済を受けることになり、他の債権者との間で不平等を生じさせる不当な行為と言えます。
そのため、破産管財人は否認権に基づいて、偏頗弁済の相手となった債権者から偏頗弁済された財産を回収することができます。
4.否認権が行使された場合の債務者の不利益
否認権が行使される直接の相手は、債務者ではなく、財産の流出先の相手です。
しかし、破産管財人が否認権を行使することにより、債務者にも不利益が生じることがあります。
(1) 手間や時間がかかる恐れがある
債務者は、破産管財人の手続上の処理に関して、説明および協力をする義務を負っています。
そのため、誰に対して・いつ・どのような財産を流出させたのかなどについて、破産管財人からの質問に対して誠実に返答し、破産管財人の否認権行使に協力するという手間が生じてしまいます。
また否認権を行使された債権者が仮に抵抗した場合、破産管財人は訴訟に持ち込むことも出来ますから、手続が長期化してしまう恐れもあります。
(2) 流出した財産を補償する必要
破産管財人が否認権を行使しようとしたものの、流出先の相手が分からなかったり、または、相手が財産を使い果たしてしまったりした場合には、財産を回収できません。
その様な場合には、債務者がその財産を補償しなければならないこともあります。
具体的に言うと、本来配当をせずに所持することが認められている財産(自由財産)の中から、流出させた分の金額を納めなければならない可能性があるのです。
5.否認権を行使されないための予防策
否認権の行使を予防するには、その原因である詐害行為と偏頗弁済をしないことにつきます。
借金の返済中に大きな財産の取引をしない・手続開始直前に取引をしないということを心掛けましょう。
特に、以下のような取引や支払いには注意が必要です。
- マイホームの任意売却:不動産は評価額が不確定で金額が大きくぶれるため、ずさんな査定に基づいて親族に売却すると、詐害行為とされるリスクが高くなります。
- 離婚による財産分与:あまりに不均衡である場合には、詐害行為とされることもあります。
- 勤務先からの借金:勤務先からの借金を給料からの天引きで返済している場合、その天引きも偏頗弁済になりますので、弁護士を通じて止めるよう依頼する必要があります。
- スマホ本体の割賦払い、滞納しているスマホ通信料、家賃:偏頗弁済となりますが、支払わなければ契約を解約されてしまう可能性があります。親族などに肩代わりして支払ってもらうことがお勧めです。
ともかく、弁護士に相談をして以降は、安易な返済や支払は止めましょう。
弁護士から詳細な助言を受けた上で、その指示に従うことをお勧めします。
6.破産管財人の否認権の不安も弁護士に相談を
自己破産手続は、債権者に大損害を与えてしまう手続きでもあります。
そのため、裁判所や破産管財人は、債権者の損害を補填するために配当手続を非常に重要視しています。
否認権の行使の原因となる偏頗弁済や詐害行為は、法律上の専門知識がなければ判断が付かないこともあります。
知らないうちに偏頗弁済や詐害行為を行なってしまうことがないよう、できる限り早くに、弁護士に相談することをお勧めします。
泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を自己破産手続で解決してきた豊富な実績があります。是非、お気軽にお問い合わせください。
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