むち打ちの慰謝料をもらうために|後遺障害異議申し立てのポイント
後遺症について慰謝料などの損害賠償請求をするには、「後遺障害」と認定される必要があります。
しかし、検査結果で原因がはっきりとわからない場合には、後遺障害の認定を受けられるとしても一番軽い等級の14級にしか認定してもらえません。
さらに、十分な必要書類や証明資料を審査機関に提出できないため、後遺障害と認められない「非該当」と認定されてしまうことがほとんどです。
そんなときは、被害者の方自ら資料を集めて申請をする「被害者請求」により、「異議申し立て」をすべきです。
異議申し立てをすれば、審査をやり直してもらえます。とはいえ、判断の根拠となる資料が変わらなければ結果は変わりませんから、新たな資料を集めて提出しなければいけません。
ここでは、むち打ちで後遺障害等級認定をしてもらえなかった場合の異議申し立てについて必要なことを述べていきます。
このコラムの目次
1.異議申し立てのポイントを証明するための資料
検査結果で原因が明らかにならない14級9号相当のむち打ちを後遺障害として認定してもらうには、弁護士や医師と協力して、非該当判断の根拠をひとつひとつ丁寧に覆せる資料を手に入れていきましょう。
(1) 最初に見るべき資料
まず確認すべき資料は次の三つです。
- 事案整理票
自賠責保険会社が交通事故全体の特徴を整理した書類です。何が認定の障害になっているか確認できます。- 経過診断書
病院が毎月保険会社に送付していた診断書です。症状の推移などを把握できます。- 診療報酬明細書
病院が保険会社に治療内容や実施した検査、通院履歴などをもとに医療費を請求する書類です。
これらの資料は、最初の申請の段階で提出されています。
しかし、被害者の方と医師との間で症状の内容などがうまく伝わらなかった、医師が資料を作成するうえで、認定審査で重要視されるポイントが正確に反映されなかった、などの問題が生じることがあります。
そのため、以下の資料も必要になります。
(2) その他の資料
①カルテや診時の問診票
後遺障害の条件を満たすことが分かる事実を正確に審査機関に認めてもらうため、必要に応じて提出しましょう。
チェックポイントはこれから順次説明していきますが、カルテなどには、むち打ちの後遺障害認定で重要となる細かい事実がより正確に記載されています。
医師がカルテを見ながら診断書を作成する際に省略してしまった事実を、カルテそのものを提出することで証明するのです。
②医療照会の回答書や新たな後遺障害診断書
さらに重要なことは、カルテなどの資料から分かる医学的な事実を、医師に専門家としての立場から意見としてまとめてもらうことです。この新しい「医学的な所見」は、証拠資料が最初の審査結果を覆せる意味を持つことを審査機関に理解してもらうため不可欠となります。
- 医療照会の回答書
医療照会とは、弁護士が医師への質問書と回答書を送付する資料収集方法です。
弁護士が法律上のポイントを踏まえて質問をしますから、その回答書は、認定を受けるための条件を証明しやすくなり、医学的な所見の中でも有力な証拠になります。
- 新たな後遺障害診断書
後遺障害診断書とは、後遺症の内容や程度、治療経過、検査結果、回復の見込や症状固定日など、後遺障害を認定するうえで中核となる医学的な情報をまとめた最も重要で不可欠な資料です。
最初の申請の必要書類であり、必ず被害者の方自身で医師に依頼、取得しているはずです。
しかし、医師との意思疎通がうまくいかなかった・医師がカルテなどをよく確認せず作成した・弁護士に依頼していなかったため、法律には素人である医師が後遺障害認定の要点を外した記載をしてしまった、などの事情により、不十分な内容になってしまうことが良くあります。
医師の協力次第ですが、カルテなどを被害者の方が依頼した弁護士に確認してもらったうえ、新たな後遺障害診断書を作成してもらうことを目指しましょう。
2.むち打ちと事故との関係性
後遺症として腰の痛みなどむち打ちの症状が残っていることを認めてもらわなければ話は始まりません。
また、法律上、交通事故が原因で症状が生じていると言えなければ損害賠償請求はできませんから、後遺障害等級認定もしてもらえません。
14級9号相当のむち打ちは、検査結果ではっきりと症状もその原因も分かりません。
しかし、「交通事故でむち打ちの後遺症が残ったら普通このような事情があるはず」という主張、それを示す資料を積み重ねていくことで、認定を受けられる可能性があります。
(1) 症状がある体の部分や症状の内容は変化がないこと
後遺症の症状は、症状が出てから一貫して、同じ体の部位に同じような症状が出ます。
むち打ちなら、最初から「首」の「痛み」とか、「右腕」の「しびれ」がずっとあるわけです。
最初の申請で提出した資料に、途中から新たな症状が異なる部位に、または異なる内容で発生したという記載があれば、その新しい症状はおろか、事故直後からある症状も交通事故との関連性を疑われかねません。
したがって、通院のたびに一貫した症状があらわれていることを医師に伝えましょう。
(2) 画像検査ではっきりと証明できない場合
非該当とされてしまうようなむち打ちでは、はっきりとした画像検査結果が残っていることは少ないでしょう。
それでも、症状との関連性がはっきりしていなくとも、何らかの異常がある検査結果があれば、認定を受けやすくなります。
また、異常がなくても、検査をした時期によっては、症状の重さや持続性を証明する証拠になります。
事故後かなりの期間が経過しているのに、MRIのような大掛かりな画像検査を実施していた場合、そのような検査が必要なほど深刻な症状が残っていたといえるからです。
3.むち打ちの症状がひどい場合
交通事故によりむち打ちの症状が残っていたとしても、仕事や家事など日常生活に支障が生じていなければ、損害賠償が必要とは言えませんから、後遺障害の認定をしてもらえません。
(1) 症状固定後の通院の有無
痛みやしびれなどの症状がひどく残り、症状固定後は自費治療になるにもかかわらず、リハビリなどのために通院していれば、ひどい症状が残り続けていることの証拠になります。
なお、交通事故の賠償手続で「通院」と認められにくい整骨院での施術も、症状固定後の通院に関しては、症状が残っていることの証拠になる可能性があります。
(2) 具体的な日常生活での支障
あなたが後遺症により生活の中でどのような不利益を受けているのかを陳述書にして提出しましょう。
例えば、
- 首の痛みのせいでパソコン作業がつらくなり、月給が五万円低い部署に異動になった。
- 腰痛のせいで趣味のゴルフにいけず、旧来の友人と話している時間が月一の飲み会だけになった。
このように、できる限り具体的に、かつ、証拠がある客観的な事実に関連付けて書きましょう。
(3) 事故の内容から衝撃の強さをアピール
むち打ちは交通事故の衝撃で首などが不自然な方向に強引に動かされ、そのせいで筋肉や腱、神経が損傷するものです。
衝撃が強ければ症状があること、症状がひどいことを説得しやすくなります。
資料としては、実況見分調書、事故車両双方の写真、修理見積りなどがあります。
- 実況見分調書
警察が人身事故の内容や当時の周囲の様子、関係者の供述を記録したものです。
公的な証明書ですので、その記載内容は信頼性が高いと言えます。
もっとも、異議申し立ての時点ですぐに手に入れられるとは限りません。
また、さほど丁寧に記載されていない、下手をすれば、不利な記載がされている可能性もあります。
現場検証の際に十分な説明と記載内容の確認ができていればよいのですが、満足いく対応ができているとは限りません。
- 事故車両双方の写真
事故車両の写真があれば、キズやへこみ、部品の剥がれ具合などで、衝撃の大きさがダイレクトにわかります。
できれば、被害者の方の車両の写真だけでなく、加害者側の車両の写真も手に入れましょう。
車種や衝突した部分によっては、衝撃のわりに損傷が小さいこともあります。
相手の車両が大きく損傷していることがわかれば、実際には大きな衝撃を受けたことを証明できます。
- 修理見積り
写真が手に入れられないのだけれど…というときに便利な資料が修理費の見積書です。
保険会社が必ず持っていますから、その写しを手に入れることができます。
丁寧に実際の自動車と修理費の見積もりの内容を照らし合わせていけば、どの部分がどれだけ損傷したかわかります。
4.異議申し立ては法律の専門家である弁護士へ
異議申し立てでむち打ちについて後遺障害が認められれば、賠償金を追加で手に入れられる可能性があります。
とはいえ、審査機関による非該当の判断を覆すには、確認または提出が必要な資料の種類・認定にプラスになる事情・医師に作成してもらうべき意見について適切な検討が必要です。
医師の医学的見解が何よりも重視される後遺障害等級認定手続ですが、あくまで交通事故の損害賠償に関わる法律的な手続です。
上記のポイントについて適切に判断できるのは、法律の専門家である弁護士だけです。
関東に多くの支店を持ち多数の弁護士が在籍する泉総合法律事務所では、これまで多数の交通事故の被害者の方を異議申立て手続でお手伝いしてまいりました。皆様のご相談をお待ちしております。
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