盗撮を繰り返してしまう心理とカウンセリングの重要性
「何度も盗撮を繰り返し捕まってしまう」という方がいる場合、家族など周囲の人は、何度も警察に捕まっているのになぜ同じことを繰り返すのか理解できない、と思うことでしょう。
実は、そのような人は、「依存症」になっている可能性があります。
性犯罪の依存症の方に対しては、刑事罰を与えることはもちろん、説教をしたり、叱りつけたり、注意を促したりするだけでは足りず、根本的な治療が必要ということになります。
今回は、盗撮を繰り返してしまうという方の心理と、予防のためのカウンセリングの必要性について、弁護士が解説します。
このコラムの目次
1.盗撮と刑罰
盗撮は、スマートフォン(スマホ)や小型カメラなどの普及に伴って、技術の発達ともに容易にかつ、巧妙に行うことができるようになっています。
しかしながら、これに対する刑罰は、性犯罪の中では軽微であるのが実状です。
(1) 迷惑防止条例
公共の場所及び私的な場所であっても人が多く集まる場所(職場、学校、ホテルなど)での盗撮は、迷惑防止条例違反の罪で処罰されます。
例えば、東京都内で盗撮をした場合には、東京都迷惑防止条例(第5条第1項)により、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」という刑罰を受けることになります。
なお、自治体によっては、公共の場所での盗撮のみを処罰対象としているところもあります。
迷惑防止条例は、居住地のものが適用されるのではなく、犯罪行為を行った都道府県の条例が適用されます。
(2) 軽犯罪法
各都道府県の迷惑防止条例ではカバーできない盗撮(私的な場所での盗撮)は、軽犯罪法(第1条第23号)が適用され、「拘留又は科料」の刑罰に処せられます。
拘留とは、1日以上、30日未満の期間で、刑事施設での身柄拘束を受ける刑罰のことです。禁錮よりも軽めの刑罰ということになります。
科料とは、1,000円以上1万円未満の範囲で、国家に金銭を納める刑罰です。罰金よりも軽めの刑罰ということになります。
2.盗撮を繰り返してしまう理由
(1) 盗撮は再犯率が高い
上記のとおり、盗撮の刑罰は性犯罪の中で比較的軽い部類に入りますから、示談さえできれば,初犯では不起訴になる人も多いでしょう。
そうすると、ことの重大性を認識できないまま同じこと(盗撮)を繰り返してしまう場合があります。
しかし、盗撮も繰り返していれば、いずれは実刑判決を受けることもありえます。
そもそも、刑罰というのは一種の抑制効果があります。誰でも、刑罰を受けたくない、警察に捕まりたくないという気持ちがあるから、犯罪を犯すことを抑制します。
しかし、捕まれば刑罰を受けるということが分かっていてもやめられない、刑罰を受けてつらい思いをしたはずなのにまた繰り返してしまう、という場合があります。
性犯罪と薬物犯罪は、特に再犯率が高いと言われています。そして盗撮も、再犯率が高い犯罪と言えます。
それは、「薬物依存」のように、依存症になってしまうからです。
(2) 窃視障害とは?
盗撮やのぞきを繰り返してしまう依存症のことは、「窃視障害」と呼ばれます。
警戒していない人が裸でいるところや、服を脱いでいる様子、性行為をしている様子をじっと見ることで性的に興奮することを「窃視症」と言います。
窃視障害は、窃視したいという衝動や空想を実行に移してしまう場合、空想によって、人間関係に困難が生じている場合のことです。
性的な興味が高まる思春期の正常な性的興奮を病気と間違えてしまわないように、窃視症と診断されるのは18歳からで、6か月以上症状が続く場合に診断されます。患者は圧倒的に男性が多いと言われています。
(3) 窃視障害に関する見解
佐賀新聞が、2018年12月29日付で報じたところによると、東京都の大森榎本クリニックの斉藤章佳・精神保健福祉部長(精神保健福祉士・社会福祉士)が、2006年5月~18年6月の約12年間、性依存症を治療する系列の榎本クリニックを受診した患者のうち、長期的に性的な盗撮やのぞきにふける「窃視障害」と診断された406人を分析した結果、盗撮を始めてから、初診までに要した平均期間は、約7.2年だということです。
盗撮の頻度は、平均で「週に2~3度」ということですから、初診までに、7.2年かかるとしたら、それまでに約1,000回の盗撮をしてしまっていることになります。
そして、上記の記事によると、盗撮を始めたきっかけは「盗撮の軽視(興味本位)」が26%で最多、性的関心が18%、ストレスやスリルが17%、盗撮サイトを見て模倣したケースも15%あったとのことです。
手口はスマートフォンが66%で、多くが撮影音を消す「無音アプリ」を使っていたということで、若年層では、スマートフォンを持ったことがきっかけになってしまう場合もあるようです。
このようなきっかけから盗撮を始め、その後もやめることができずに、盗撮を繰り返してしまう心理について、斉藤医師は、「他人の日記を盗み読みするような優越感にひたり、やめられなくなっている。動画や画像を保存することで支配欲や所有欲が満たされているようだ」と分析しています。
また、別の記事で、斉藤医師は、「万引きも盗撮も『最初は犯罪行為をするつもりじゃなかったのに何かが引き金となって行為に及んでしまう』という例と、そもそも最初から犯罪行為を目的に行動するという例があります。
また、共通しているのは「相手(商品)が目的ではなく、行為中に強烈に感じる非日常的なスリルとリスク」にハマってしまう点です。決して性的欲求を満たすためだけという理由ではありません」とも述べています。
万引きを繰り返す人の依存症「クレプトマニア」は、有名になってきていますが、盗撮を繰り返す人も、同じような心理状態というわけです。
このような窃視障害に対する対応は、専門医での治療、カウンセリング、そして、支援団体への参加ということになります。
治療は、ある種の抗うつ薬などを用いて行われます。
3.弁護士に相談することの重要性
盗撮の刑罰が軽微であっても、繰り返せば、実刑判決もないわけではありません。
再犯を行うたびに、実際に裁判所から科される刑罰は重くなっていきます。
そこで、まずは、刑事手続きに対する対応を考える必要があります。
この点から、最も大切なのは示談交渉です。早急に被害者に謝罪し、必要な示談金を受け取ってもらうことで、被害者の処罰感情を和らげることができれば、再犯の場合でも不起訴を得ることができる場合があります。
そのためには、早く弁護士に依頼して、示談交渉を開始してもらう必要があります。
そして、窃視障害であると考えられる場合には、弁護士からも、治療・カウンセリングについてアドバイスをもらうことができます。
上記の佐賀新聞の記事でも、「来院のきっかけは弁護士からの紹介が最多の46%で、逮捕や裁判を機に初めて専門治療に結び付いたとみられる」とされています。
治療やカウンセリングは、もちろん自分が生きやすくなるために受けるものですが、それ以外に、刑事手続きへの対応という観点からも効果があります。
自分の依存症と向き合い、治療していきたいという意思を示せば、実刑判決で刑務所に収容するよりも、社会の中で治療を受けながら、やり直していくことが再犯防止につながると判断してもらえ、不起訴や執行猶予を得られる可能性も高まるのです。
4.盗撮の再犯が続く場合はいち早く弁護士へ相談を
盗撮で捕まった場合には、初犯でも、再犯でも、早急に弁護士に相談するべきです。刑事事件を豊富に扱っている弁護士の中でも、特に、薬物依存やクレプトマニアなど、依存症にも詳しい弁護士に依頼するとよいでしょう。
泉総合法律事務所は、痴漢・盗撮などの性犯罪の弁護はもちろん、クレプトマニアの方の弁護も多数実績があります。被疑者の方の利益を最大限い確保すべく、刑事専任の弁護士が全力でサポートいたします
盗撮・依存症などでお困りの方は、また犯罪を繰り返してしまう前に、泉総合法律事務所の無料相談を是非ご利用ください。
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