盗撮で再犯の場合、罪の重さはどう変わるのか
「盗撮は繰り返される」といいます。
盗撮を再び犯してしまった場合、処罰はどうなるのでしょうか。不安に駆られている被疑者の方もいるでしょう。
以下においては、盗撮の再犯状況とその要因(なぜ盗撮を繰り返すのか)、処罰について、そして示談の重要性などを説明します。
このコラムの目次
1.盗撮とはどのような犯罪なのか
(1) 盗撮の定義
盗撮とは、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置することです。
(2) 盗撮行為の罪名
都条例違反の罪
東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では、下記のように規定されています。
罪名(該当規定) |
刑罰(罰則規定) |
||
---|---|---|---|
都条例違反(5条1項2号⇒撮影したとき)
|
通常
|
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条2項1号) |
|
常習 |
2年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条7項) |
||
都条例違反(5条1項2号⇒撮影機器を差し向け又は設置したとき) |
通常 |
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(8条1項2号) |
|
常習 |
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(8条8項) |
軽犯罪法違反の罪
「公共の場所や公共の乗物」以外の場所を盗撮(のぞき見)した場合には、軽犯罪法違反の罪(1条23号)が成立し、拘留(1日~30日未満)又は科料(1,000円~1万円未満)に処せられます(1条柱書)。
住居侵入罪
盗撮行為をするために住居やビル内に立ち入った場合には、別途、住居侵入罪や建造物侵入罪(刑法130条前段。3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
児童ポルノ禁止法違反の罪
盗撮の被害者が18歳未満であったような場合には、児童ポルノ禁止法違反の罪(7条5項。3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
2.盗撮の再犯状況とその要因
以下の説明は、平成27年版犯罪白書~性犯罪の実態と再犯防止~(犯罪白書)によっています。
なお、犯罪白書は、厳罰化の検討が進む性犯罪を重点的に調べたものであり、下記の盗撮及び痴漢は、いずれも条例違反のものを指します。
※犯罪白書では、「盗撮等(卑わいな言動を含む)」として記述されていますが、迷惑防止条例違反の盗撮には、自治体によっては「卑わいな言動」も含みますので、以下、盗撮として説明することとします。
(1) 盗撮を犯した者の科刑状況
平成20年7月1日から平成21年6月30日までの1年間に、盗撮の罪で懲役刑の有罪判決が確定した者は77人です。
その内訳は、実刑が28人(36%)、執行猶予が49人(64%。37人が保護観察の付かない執行猶予、12人が保護観察付執行猶予)となっています
(2) 盗撮を犯した者の前科の有無
上記77人のうち、前科のある者が60人(77.9%)、前科のない者が17人(22.1%)ですが、その60人のうち、性犯罪前科のある者が64.9%(50人)と高く、性犯罪以外の前科のある者が13%(10人)です。
50人の前科の科刑状況は、実刑の者が10人、執行猶予の者が10人、罰金の者が30人となっています。
しかも、その性犯罪前科の罪名は、強姦罪(現罪名・強制性交等罪)はなく、強制わいせつ罪(7人)と条例違反(痴漢と盗撮)の罪(50人)であり(重複計上によります)、統計上、複数回の性犯罪前科がある者の割合は46.8%(2回の者・19人、3回以上の者・17人。なお、1回の者・14人)と高いのです。
以上のことから、前科のない者でも、実刑か執行猶予かはともかく、初回の盗撮の罪で懲役刑の有罪判決を受けていることが分かります。
(3) 盗撮を犯した者の再犯率
上記77人の再犯状況については、判決確定から5年が経過した時点までに、全再犯(罪名を問わない全ての再犯)した者は28人(36.4%)で、刑法犯の性犯罪が1人(1.3%)、条例違反の性犯罪が21人(27.3%)、その他の犯罪が6人(7.8%)であり、再犯者の4分の3は条例違反の性犯罪です。
また、上記77人の特色については、約半数の者が初回の性犯罪時の年齢が29歳以下であり、上記有罪判決における犯行時の年齢が平均37.4歳であること、未婚の者が62.3%(48人)、大学進学の者が38.2%(29人)であり、いずれも、他の犯罪類型よりも高い割合を示していることです。
以上のことから、盗撮を犯す者は、複数回の刑事処分を受けているにもかかわらず、条例違反の性犯罪を繰り返している者が多いことが分かります。
(4) 盗撮を含む性犯罪再犯者の動機や傾向
最初の再犯が性犯罪(盗撮も含まれます)であった者に関する調査では、犯行時に通常の通勤等のルートとは異なる電車に乗って移動したり、犯行場所の下見をしたりするなどの何らかの計画性が認められます。
さらに、性犯罪再犯に至った動機としては、事前に犯行に関連するような性的な思考や空想を抱いて犯行に及んだこと(この動機の者が最も多い)、その他、人に接触して欲求を充たしたいと思ったこと、ストレス等を発散したいと考えたこと、スリルを味わいたいと考えたこと、人を支配あるいは人に優越したいという欲求を充たしたいと考えたこと、自暴自棄になって犯行に及んだことなどが挙げられています。
独り身で束縛がなく自由な人や高学歴である人が、盗撮をしやすいと言われています。
もちろん、全ての方がそうであるわけではありませんが、このような動機がある場合には、社会生活の中で人に対する直接的な行為に及ぶことは躊躇されるものの、写真機等の機器を用いれば動機を充たす結果が得られるため、駅構内や商業施設のエスカレーター等において性的衝動を抑えられなくなり、盗撮行為を繰り返すものと考えられます。
ところで、平成26年の条例違反の盗撮事犯(各都道府県において、「下着等の撮影」又は「通常衣服を着けない場所における盗撮」として判断したものをいいます)の検挙件数は3,265件です。
その盗撮の特色ですが、犯行時間の5割弱が帰宅時間帯、犯行場所の6割強が駅構内とショッピングモール等商業施設、供用物の7割強がスマートフォン・カメラ付き携帯電話となっています。
3.盗撮の量刑
(1) 不起訴・罰金・執行猶予の可能性
先述の77人は、懲役刑の有罪判決を受けています。
平成26年度(3,265件)と上記調査年度(77人)の数値から、単純には比較はできないものの、盗撮の多くは、公判請求されずに、罰金や不起訴処分で終わっていることがうかがわれます。
盗撮の量刑については、計画性や動機、犯行態様、常習性の有無、前科の有無、被害者の処罰感情、示談の有無や示談金額などが総合的に判断されます。
量刑の判断要因を踏まえますと(上記77人の中には前科がなくても、懲役刑の有罪判決に処せられている例があるとはいえ)、盗撮の量刑の一般的傾向としては、初犯で示談が成立すれば、不起訴処分となり、また、初犯で示談が成立していない場合には罰金となる可能性が高いといえます。
そして、同種前科が2回程度ある場合でも、示談が成立すれば、公判請求されずに罰金となることも考えられます。
初めて公判請求された場合には、執行猶予が見込まれます。
犯罪白書によれば、盗撮を犯した者でも、社会内での更生が期待できる場合、罰金や執行猶予判決で済むこともあります。
(2) 再犯の場合
受刑後5年以内に盗撮を犯し、懲役刑に処せられる場合は、累犯(刑法56条1項)として、執行猶予が付かず、必ず実刑となります。ただし、判決時に5年を経過していれば、法律上、執行猶予が付くことも可能です。
また、盗撮の全てが公判請求されるとは限りませんので、5年以内の再犯でも、罰金となる可能性はあるわけです。
しかし、犯罪白書が指摘する、性犯罪の厳罰化傾向からしますと、盗撮も厳しい非難を免れないわけですから、従来の量刑よりも重くなる傾向は否めません。
そうしますと、執行猶予中の犯行や常習的な犯行(初めて検挙された場合でも、携帯に盗撮のデータが残っている案件も含まれます)に対しては、より厳しい処罰が予想されます。
4.示談の重要性
盗撮事犯では、上記のように、不起訴・罰金・執行猶予の可能性だけでなく、実刑の場合の宣告刑あるいは実刑か執行猶予かを決する判断要因としても、被害者との示談が大きな比重を占めています。
初犯でも再犯でも、被害者との示談の成立の有無が今後の人生を大きく左右します。
盗撮を犯してしまったという事実を反省し、被害者の方にしっかりと謝罪することが大事ですので、検挙された早い段階で弁護士に依頼することが望ましいことになります。
5.まとめ
盗撮を犯してしまった場合、示談交渉が最重要となってきます。しかし、被疑者の方は、被害者と直接の示談交渉ができません。
まずは、刑事事件に詳しい弁護士にご相談ください。
泉総合法律事務所は、刑事事件の弁護経験が豊富で、性犯罪弁護・示談交渉の実績も多数あります。皆様のご相談・ご依頼をお待ちしております。
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