同意があったのに児童買春の疑いで逮捕された!家族にできること
家族が児童買春の疑いで逮捕されたり、刑事裁判となったりした場合、被疑者の家族として最初に心に浮かぶのは、「本当に?」「なぜ?どうして?」という疑問ではないでしょうか。
家族の方は、慌てず冷静に、ひとつずつ問題を解決していく必要があります。
まず、児童買春の被疑者は児童買春・児童ポルノ禁止法に抵触する可能性があります。また、各自治体では、いわゆる「淫行条例」が定められており、これにも抵触する可能性もあります。
場合によっては、強制わいせつ罪・強制性交等罪が問題となる可能性もあります。
ここでは、各法律・条令の適用される要件や、逮捕後はどうなるのか、釈放されることはあるのか、被疑者との面会はどうなるのかなど、ご家族にとって気になることをまとめましたので、ぜひご覧ください。
なお、児童とは18歳未満の者を指します。
このコラムの目次
1.児童買春とは
児童買春とは、児童や親らに金銭や物品などの経済的な対価(これを「対償」といいます)を渡すなどして、児童と性交や性交類似行為をしたり、児童の性器等を触ったり、児童に自分の性器等を触らせたりすることです。
例えば、児童に数万円を渡して性行為等を行う場合や、児童と援助交際をして性的な行為を行う場合です。
その場合、5年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金刑といった刑罰に処せられます(児童ポルノ禁止法4条)。
なお、この罪が成立するためには、被疑者に相手が18歳未満であることの認識が必要です。
また、以下の場合にも注意が必要です。
児童と性交等を行ったが、金銭や物品を渡さず、渡す約束もしていない場合
対償の供与や供与の約束という犯罪成立の要件を欠くため、児童買春罪は成立しません。もっとも、後に説明する淫行条例違反の罪に問われる可能性があります。
児童の同意を得た上で対償を渡し性交等を行った場合
同意があっても、性的虐待・搾取から児童を保護する法の趣旨から、児童買春罪が成立します。
18歳以上と誤信して対償を渡し性交等を行った場合
児童買春罪が成立するには、相手が18歳未満であることの認識が必要です。
18歳未満でないと信じていた場合は、たとえ年齢を確認しなかったことに過失がある場合であっても、児童買春罪は成立しません。
しかし、18歳未満であることを確信している必要はなく、「もしかしたら18歳未満かも知れないがかまわない」という未必的な認識でも児童買春罪は成立します。
相手の見た目や服装などから、18歳未満と考えるのが常識にかなう場合には、未必的な認識があったと認定され易いでしょう。
では次に、児童買春(児童ポルノ禁止法違反)ではなく、淫行条例違反の罪に問われる場合と、強制わいせつ罪・強制性交等罪に問われる場合について検討していきます。
2.淫行条例違反の罪に問われる場合
淫行条例が定められている趣旨は、青少年(18歳未満の者)に対する反倫理的な性交等を禁止することです。淫行条例は都道府県が定めているので、地域によって内容が少し異なる場合があります。ここでは、東京都の場合を念頭に置いて説明します。
東京都の淫行条例(「東京都青少年の健全な育成に関する条例」)には、次のように定められています。
第18条の6「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。」
これに違反した場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(同条例24条の3)。
ここに「みだらな性交又は性交類似行為」とはどのような行為でしょうか?
警視庁のサイト(※1)によると、次のとおり説明されています。
①青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為
③なお、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は除く。
この説明は、福岡県の青少年保護育成条例に定められた「淫行」とは何かについて判断した最高裁判例(※)の解釈をそのまま用いたものです。
※1:警視庁「淫行」処罰規定
※2:最高裁昭和60年10月23日判決
児童の同意を得てみだらな性交等を行った場合
児童の同意の有無は、淫行条例違反の罪の成否に影響しません。
児童と性交等を行ったが金品・物品を渡していない場合
児童買春とは異なり、淫行条例では、金銭や物品を渡すことは犯罪成立の要件ではありません。
つまり、金銭や物品を渡していなくても、淫行条例違反は成立します。
18歳以上と誤信してみだらな性交等を行った場合
各自治体によって扱いが異なります。
東京都の場合は、18歳以上と信じていたときは条例違反となりませんが、愛知県のように18歳以上と誤信したことに過失があった場合(相手が年齢を証明するために身分証を見せてきたが、そこに写っている顔写真が明らかに異なる人であった等)は、条例違反とする地域もあります。
3.強制わいせつ罪や強制性交等罪に問われる場合
児童とみだらな行為等をした場合、強制わいせつ罪(刑法176条)や強制性交等罪(同177条)が成立することもあります。
強制わいせつ罪は、①13歳以上の者に対し暴行・脅迫を用いてわいせつな行為をした場合、又は、②13歳未満の者に対しわいせつな行為をした場合に成立します。法定刑は6月以上10年以下の懲役刑です。
強制性交等罪は、①13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔性交(以下「性交等」)をした場合、②13歳未満の者に対し性交等をした場合に成立します。法定刑は5年以上の有期懲役刑です。
以下で具体的に説明します。
同意を得ていた場合
相手が13歳未満の場合、同意の有無は犯罪の成否に影響しません。強制わいせつ罪あるいは強制性交等罪が成立します。
相手が13歳以上である場合、同意を得ていれば強制わいせつ罪・強制性交等罪は成立しません(18歳未満ならば淫行条例違反は成立します)。
13歳以上と誤信し、同意を得ていた場合(暴行又は脅迫を用いない)
13歳以上と誤信していた場合、たとえ年齢を確認しなかったことに過失がある場合であっても、暴行・脅迫などを手段としない限り、強制わいせつ罪や強制性交等罪は成立しません。
しかし、13歳未満であることを確信している必要はなく、「もしかしたら13歳未満かも知れないがかまわない」という未必的な認識でも、強制わいせつ罪や強制性交等罪は成立します。
4.逮捕された後の流れ
児童買春などの性犯罪で逮捕されると警察に身柄を拘束されて取り調べを受け、48時間以内に身柄を検察官に送致されます。
検察官も取り調べを行い、送致から24時間以内で、かつ逮捕から72時間以内に裁判官に対する勾留請求を行ないます。
裁判官は、検察官から勾留の請求があると、被疑者に対する勾留質問を行って、その当否を審査します。
犯罪の嫌疑があり、①住居不定、②罪証隠滅のおそれがある、③逃亡のおそれがある、のいずれかに当たり、捜査を進める上で身柄の拘束が必要なときには、被疑者の勾留が認められます。
勾留期間は原則10日間ですが、検察官は捜査の必要を理由に延長を申請することができます。裁判所が認めると、最大で10日の勾留延長となります。
つまり、逮捕から最大23日は、身体の自由が制限される可能性があるのです。
近年は、検察官からの勾留請求を裁判官が却下するケースも増えてきていますが、数字的にはまだまだレアケースです。
また、いったん勾留された後、勾留期間満了前に釈放されるケースも少数です。
さらに、勾留後に起訴された場合には、保釈が認められない限り、身体の拘束が続くことになります。
(事実を認め、住居、職場がはっきりしており、しっかりした身元保証人がいれば、保釈が認められる可能性は高いです。)
どのような事情がそろえば否認のままでも保釈が認められるかは、事案によりケースバイケースですので、弁護士との法律相談でアドバイスを受けることをお勧めします。
5.身柄拘束中の被疑者との面会
(1) 逮捕中の被疑者との面会
逮捕中は、弁護士以外の人が被疑者と面会することはできません。
被疑者は警察の留置場等に留置され、外部との連絡も自由にできなくなるので、被疑者と連絡を取るためには、弁護士に依頼するしか方法がないことになります。
(2) 勾留中の被疑者との面会
勾留中は、家族も面会できますが、一定の制限がつきます。
一般的な例でいうと、平日の日中の時間帯でかつ時間制限(20分程度)、回数制限(1日1回)、人数制限(1回の面会で3人まで)、警察官の立会いといった条件です。
さらに、接見禁止等の決定がなされると、面会できるのは弁護士だけとなります。
被疑者は、逮捕され、今後どうなるのだろうと不安に思っています。当然ながら様々なことを家族や専門家と相談したいはずですので、そのためには、1日でも早く弁護士に依頼するのが望ましいといえます。
家族としては、逮捕されたことを被疑者の職場に知られないようにしたいものです。しかし、児童買春ということで逮捕が報じられた際に、犯人として氏名が明らかにされてしまう場合があるのも事実です。
幸いにも報道されなければ、警察や検察が被疑者の職場に連絡をすることはありませんので、職場に知られる危険性はありません。しかし、逮捕・勾留が続き無断欠勤が長引くと、会社も不審に思い、場合によっては解雇を言い渡されてしまう可能性はあるでしょう。
また「被害者の児童が職場のアルバイト生であった」など、職場に関係する場合は別論です。この場合、職場に知られてしまう可能性は十分にあります。
6.児童側の示談の進め方
(1) 児童買春における示談の必要性
児童買春等の性犯罪の罪を犯した被疑者に対する処分結果としては、検察官による不起訴処分(起訴猶予)、略式起訴による罰金刑、正式裁判での実刑(又は執行猶予付き懲役刑)が考えられます。
罰金刑や実刑、執行猶予付き懲役刑は、有罪判決なので、言い渡されると「前科」がついてしまいます。前科による悪影響を避けるためには、不起訴処分を目指すしかありません。
不起訴処分(起訴猶予)になるかどうかは、諸般の事情を総合考慮して決められますが、重視されるのが被害者との示談です。一般に、できるだけ早期に示談を成立させることが、不起訴処分を勝ち取るために最も重要であり、このことは児童買春であっても同じです。
しかし、児童買春の場合は、たとえ示談を成立させても、起訴猶予とはならない可能性が高いです。
例えば、2017年の検察統計では、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の事件は、総数4,999件のうち、起訴猶予は414件しかないと報告されています(※検察統計「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」2017年)。
したがって、示談を成立させたとしても、起訴されてしまう可能性が高いことを覚悟する必要があります。
しかし、起訴猶予が困難であるからと言って、示談に意味がないわけではありません。
示談が成立していれば、起訴されたとしても、懲役刑の可能性がある正式裁判ではなく、略式裁判で罰金刑となる可能性が高くなります。
実際、先の統計でも、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の事件で起訴された1,804件のうち、1,311件が略式起訴です。
罰金刑でも前科とはなりますが、略式起訴の場合は、通常、法廷での裁判に出廷する必要はなく、裁判所が罰金の支払いを命ずる略式命令を書面で発すれば、直ちに釈放してもらえます
また正式裁判を求めて起訴された場合でも、示談が成立していれば、有利な情状として考慮されますので、執行猶予付き判決や減刑が期待できます。
したがって、児童買春罪においても、示談が重要であることに変わりはありません。
(2) 示談交渉のポイント
児童買春罪の示談交渉は、他の犯罪と比較しても難度の高い部類に入ります。
多くの場合、保護者の怒りは凄まじいものがあります。
弁護士からの連絡を拒否する保護者は少ないですが、被疑者の家族や親族との接触はまず拒否されます。
また、弁護士からの示談の申し入れも一切応じてもらえないケースが珍しくありません。
ただ、児童買春罪の被害者となる児童は、非行などの問題を抱えている子どもも多く、保護者も子どもの教育、行く末に大きな悩みを抱えているケースが珍しくありません。
弁護士が、被害者側の怒りや悩みにも真摯に耳を傾け、心からの助言をすることで、被害者側からも信頼を勝ち得ることができれば、示談に応じてもらえる可能性もあるのです。
そのためには、刑事事件や少年事件の解決実績豊富で、熱心な弁護士による粘り強い弁護活動が必要です。
必然的に交渉に時間もかかりますので、できるだけ早い段階から弁護士を選任して、交渉を開始するべきでしょう。
泉総合法律事務所は、刑事事件の弁護経験が豊富で、性犯罪弁護・示談交渉の実績も多数あります。
逮捕されてしまった場合は、お早めに当事務所へご相談、ご依頼ください。
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