窃盗罪の証拠にはどのようなものがあるのか?
窃盗の多くは密かに行われます。
しかし、刑事事件の中でも、窃盗事件はかなりの件数が検挙されています。
共犯者や目撃者がいればともかく、そうでない場合、どうして犯人逮捕にまで至るのでしょうか。
窃盗を犯した場合、その犯人はどのように特定され、逮捕されることになるのでしょうか。
今回は、窃盗罪の証拠と、被疑者になってしまった場合の刑事弁護について、弁護士が解説します。
このコラムの目次
1.窃盗事件の情況証拠
被疑者が窃盗を自白していれば、補強証拠としては、盗難被害届で足りるとされています(判例通説)。
したがって、自白事件の場合、被疑者は争いなく窃盗犯人といえることになります。
しかし、被疑者が窃盗を否認している場合、盗難被害届だけでは被疑者が窃盗犯人だとはいえません。
では、被疑者が窃盗犯人だといえるためには、どのような証拠が必要なのでしょうか。
情況証拠(窃盗の犯行を推認させる証拠)が一つでもあれば、被疑者が窃盗を犯したことが認められる、ということは少なく、一般的には、下記の(1)〜(3)などのような、複数の情況証拠を総合して、被疑者が窃盗の犯人かどうかが判断されます。
したがって、被疑者が窃盗犯人だとする確実な情況証拠がある場合はともかく、そうでなければ、複数の情況証拠に基づき、後日、被疑者は逮捕されることになります。
(1) 犯行時の情況証拠
被疑者が、犯行直前に現場付近で目撃されていれば、被疑者の犯行の可能性を示す情況証拠となります。
しかし、被疑者が、犯行の時間帯に別な場所にいたのであれば、被疑者の犯行を打ち消す情況証拠となります。
また、第三者による犯行の蓋然性があれば、被疑者の犯行可能性を否定する情況証拠となります。
犯人が現場に残した指紋、掌紋、靴跡、DNAが、鑑定の結果、被疑者のそれと一致すれば、被疑者が犯行現場にいたこと、すなわち窃盗を犯したことを示す情況証拠となります。
しかし、被疑者が以前から犯行現場に出入りしていた旨を弁解している場合には、それらの痕跡が別な機会に残った可能性もあります。
この可能性を排斥できなければ、被疑者の犯行を認定することができないでしょう。
犯行現場付近の防犯ビデオカメラの場合には、そこに写っている犯人の映像の解析から、映像が人物を特定できる程度に鮮明であり、かつ、身長推計鑑定に証明力が認められれば、被疑者が窃盗を犯したことを示す情況証拠となりましょう。
(2) 犯行前の情況証拠
被疑者が、金銭的に困っていたという事情があれば、被疑者には、窃盗を犯す動機があることを示す情況証拠となります。
被疑者が、犯行現場の様子をうかがっている状況が目撃されていれば、被疑者の犯行の可能性を示す情況証拠となります。
(3) 犯行後の情況証拠
被疑者に盗品の所持等があれば、合理的な理由を説明し得ない限り、被疑者が窃盗を犯したことを示す情況証拠となるといえます。
後日、別の場所で発見された盗品から被疑者の指紋が検出されれば、被疑者が窃盗を犯したことを示す情況証証拠となります。
警察犬が、犯人の臭いを追って被疑者方付近に至れば、被疑者が窃盗を犯したことを示す情況証証拠といえましょう。
また、警察犬が、犯人が犯行現場に遺留した物件の臭気と被疑者着用の物の臭気が符合するという選別をすれば、被疑者が窃盗を犯した可能性を示す情況証拠とみてよいと思われます。
2.窃盗犯人かどうかの認定方法
では、いざ窃盗事件が起こった際、窃盗犯人かどうかが実際どのように認定されるのか、次の事例をもとに考えてみましょう。
【窃盗の犯行から2時間30分後、犯人が盗品を所持しているのを発見して追跡し、犯行から4時間後に準現行犯逮捕(刑訴法212条2項2号)した事案】
被告人は、電気ドリルを建築現場から盗んだとして起訴されましたが、その電気ドリルは第三者から盗んだ物だと知って買ったと述べていました。
しかし、様々な証拠から、⑴職人が建築現場で電気ドリルを使用していたこと、⑵職人が夕方建築現場に電気ドリルを置いて帰ったこと、⑶翌朝現場からなくなっていたこと、⑷被告人が⑶の日の昼頃その電気ドリルを持って古物商に売りに赴いたこと、が判明しました。
では、被告人の供述どおり、盗品は買ったものだと認定してもよいのでしょうか。
上記の4つの事実から、⑴電気ドリルが盗まれたこと、⑵窃盗が行われた1日以内に被告人がその電気ドリルを所持していたことが、少なくとも間違いのない事実として推認できるでしょう。
しかし、だからといって、直ちに被告人が窃盗を行ったと認定することは早すぎます。
被告人が電気ドリルを「どのようにして取得したか」を考えなければなりません。
常識的には、被告人が、⑴自ら盗んだ、⑵第三者から買った(貰った、預かった)、⑶拾った、⑷全く別の時刻に別の場所で盗んだ、などが考えられるでしょう。
これを考える際に必要なことは、「事実の流れに沿って、事件がどうして起こったのかを十分に把握すること」です。犯罪も通常人の行動である限り、前後のつながりが合理的な必然性をもっているからです。
例えば、
- 被告人が職人の帰る直前にその建築現場に立ち寄り、現場監督に雇ってほしい旨申し入れていたこと
- その直後、被告人が近くの食堂で飲食して代金を支払う際、お金が足りないと言って数円をまけてもらったこと
このようなことが他の証拠から明らかになった場合、被告人には被害場所に土地勘があるといえる一方、電気ドリルを買う金を持っていたと認めることは難しいです。
そして、事実の流れとしては、電気ドリルを盗むことはこれらの被告人の前後の行動と連鎖があり、第三者から買うことは極めて突発的な出来事で、その可能性は極めて低いと言えるでしょう。
被告人が、窃盗被害発生の日時及び場所に近接して、当該被害物品を所持又は処分した事実があれば、その所持等が盗難被害に近接していればいるほど、被告人が当該窃盗犯人であるとの推定力はそれだけ強くなるとされます。
このように考えるのは、「近接所持の法則、法理」といわれているものです。
しかし、この事実のみでは、被告人を窃盗犯人であると決することはできません。
ここで問題となるのが、被害発生の日時・場所と、被告人の盗品所持等の時間的・場所的間隔なのです。
その間隔が大きければ大きいほど、被告人が他の原因で取得する可能性が増し、その間隔が小さければ小さいだけ、被告人が窃盗犯人であるとの推定が強くなるといえるからです。
そして、被告人が窃盗を犯していないとすれば、その入手に至る経緯を説明し得るはずです。
しかし、この点について、被告人が合理的に説明できない、あるいは、その説明が虚偽・虚偽である可能性が高い場合には、盗品の近接所持という情況証拠から、被告人が窃盗犯人であると認定することは許されるでしょう。
3.窃盗事件の逮捕後の流れ
窃盗で逮捕された場合、自由が制限されるのは最大で72時間です。その後、引き続き身体を拘束するのが勾留です。
裁判官は、検察官から勾留の請求がありますと、勾留質問を行って、その当否を審査します。
窃盗を犯した疑いがあり、住居不定、罪証隠滅のおそれ又は逃亡のおそれのいずれかに当たり、捜査を進める上で身柄の拘束が必要なときに、被疑者の勾留を認めます。
反対に言えば、検察官から勾留請求があった場合でも、罪証隠滅のおそれなどがなければ、勾留は認められないことが多いでしょう。
また、不起訴処分(起訴猶予)や罰金が考えられる窃盗事案の場合、あるいは早期に示談により被害弁償の措置が取られた場合には、(事案にはよりますが)逮捕等の身柄拘束まで至らず、在宅事件として捜査が進められることもあります。
もちろん、捜査の結果、被疑者の犯行とする証拠がない場合(嫌疑なし)、被疑者の犯行とする証拠が不十分な場合(嫌疑不十分)には、検察官は不起訴処分をすることになります。
したがって、「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」の場合には、窃盗を証明する証拠がないか、足りないわけですから、そもそも逮捕されないということになります。
4.窃盗事件における示談の重要性
窃盗事件の処分結果としては、検察官による不起訴処分(起訴猶予)、略式起訴による罰金、正式裁判での執行猶予付き懲役刑又は懲役の実刑(前科のある場合、犯行態様が悪質な場合や被害額が大きい場合など)が考えられます。
その処分結果に最も影響を与えるのが、被害者との示談(被害弁償)です。
示談が早ければ早いほど、被疑者に有利な処分結果が出ることが期待できますので、事件発覚直後の早い段階で、弁護士に依頼することが望ましいです。
5.まとめ
ご自分が窃盗を犯してしまった場合、その後、どうなってしまうのかと心配になると思います。
そのような場合、お早めに泉総合法律事務所にご相談ください。刑事弁護に精通した弁護士が適切にアドバイスいたします。
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