暴行罪・傷害罪の違いと暴力事件の示談交渉について
暴行罪と傷害罪は、暴力事件のニュース報道等で、ともによく耳にする犯罪名です。
では、暴行罪及び傷害罪は、そもそもどのような犯罪で、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、暴行罪・傷害罪について、その刑事弁護の方法と合わせて弁護士がご説明します。
このコラムの目次
1.暴行罪とは(刑法208条)
暴行罪は、人に有形力を行使することによって成立する犯罪です。
具体的には、殴る、蹴る、突く、押す、投げ飛ばすなどの暴力を加える行為です。相手の髪を切る行為等も暴行にあたります。
また、本罪の「暴行」は、人の身体に向けられたものであれば足り、人の身体に直接接触する必要はありません。
例えば、通行人の数歩手前を狙って石を投げつけること、被害者のいる狭い部屋の中で抜き身の日本刀を振り回すことのいずれも「暴行」に当たります。
さらに、音響、光、電気、熱等のエネルギーの作用を人に及ぼす行為も「暴行」に含まれます。
例えば、被害者の身辺で大太鼓や鉦などを強く連打して空気を振動させ、その振動力を被害者の身体に作用させることも暴行です。
暴行罪の法定刑は、2年以下の有期懲役、30万円以下の罰金、拘留又は科料です。
2.傷害罪とは(刑法204条)
傷害罪は、人の生理機能を侵害することによって成立する犯罪です。
生理的機能を侵害するとは、簡単に言うと、被害者を怪我や病気にしてしまうことです。
例えば、人に暴行を加え、相手に全治1ヶ月の怪我をさせたケースは、傷害罪に当たります。
傷害罪の法定刑は、15年以下の有期懲役又は50万円以下の罰金です。
なお、相手を傷害し死亡させた場合には、傷害致死罪が成立します。
また、殺意がある場合には相手が死亡すれば殺人罪が成立し、死亡しなければ殺人未遂罪が成立します。
相手に傷害を負わせる方法としては、暴行によるものと、それ以外のものがあります。
(1) 暴行による傷害
他人に有形力を行使した場合には、暴行罪で処罰されるのは先述の通りです。
その結果、他人に怪我を負わせてしまった場合には暴行罪ではなく、傷害罪だけが適用されます。
つまり有形力を行使したが被害者が怪我をしなかった場合が暴行罪、怪我をした場合が傷害罪です。
相手方に怪我を負わせる認識があった場合はもちろん、傷害の認識がなくても暴行の認識があり、有形力を行使した結果、怪我を負わせた以上、傷害罪が成立します。
(※このように、ある基本となる犯罪(「基本犯」といい、この場合は暴行罪)を遂行したところ、重い結果を生ぜしめた場合に、重く処罰する犯罪の類型を「結果的加重犯」と呼びます。)
(2) 暴行によらない傷害
他方、暴行、すなわち有形力を行使しなくとも、他の方法で被害者の生理的機能を侵害すれば傷害罪が成立します。これには、以下のような場合が該当します。
- 自宅から隣家に向けて連日ラジオの音声等を大音響で鳴らし続け慢性頭痛症等を負わせる
- 無言電話等により相手を極度に畏怖させて精神障害を発生させる
- 性病に罹患している者が姦淫行為によって性病を感染させる
暴行を用いて傷害する場合とは異なり、この場合には、傷害することについての認識が必要です。
そのため、傷害についての認識がない場合には、過失致傷罪が成立しうるにとどまります。
3.暴行罪と傷害罪の違い
(1) 成立要件の違い
両者の成立要件の違いをまとめると、次のとおりです。
①「暴行」を用いただけなら暴行罪(傷害するつもりであった場合でも、傷害の結果が生じていなければ、暴行罪にとどまります)
②「暴行」を用いて相手に怪我を負わせれば傷害罪(傷害するつもりがなくても結果的加重犯としての傷害罪となります)
③暴行以外の方法で生理的機能を害しても傷害罪(この場合は、傷害するつもりが必要)
(2) 刑の重さの違い
刑罰の重さも大きく異なります。暴行罪と傷害罪の規定を比べてみればわかるように、傷害罪の方が刑の上限がかなり重くなっています。
暴行罪の刑罰:2年以下の懲役、30万円以下の罰金、拘留又は科料
傷害罪の刑罰:15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
人の生理的機能の侵害である「傷害」の内容は、かすり傷から瀕死の重傷まで、幅広い被害状況を含んでいます。
例えば、犯人に殺意がなければ、被害者が植物状態となってしまっても傷害罪にとどまるので、上限が15年という重い刑になっているのです(前述のとおり、殺意があれば、殺人未遂罪という別の犯罪です)。
(3) 賠償金額の違い
また、民事上の責任に目を向ければ、被害者に対する損害賠償の金額も異なります。
暴行罪の場合、相手は怪我をしてないので、治療費を賠償する必要がありません。
他方、傷害罪の場合、相手の怪我に対応した治療費や通院交通費、付添費などを支払わなければなりません。
加えて、慰謝料の額も、傷害罪の場合の方が高額になります。
怪我を負った場合には、被害者は、怪我の痛み苦しみという苦痛に加えて、入院や通院をする苦痛も被ることになります。また、重い障害が残った場合には、被害者の家族に対する慰謝料も支払わなくてはなりません。
傷害罪の損害賠償責任というものは、被害の内容によっては、数千万円どころか、1億円を超える場合もあります。暴行罪とは比較にならない金額となる危険があるのです。
4.暴行罪・傷害罪における示談
暴行罪や傷害罪を起こした場合、警察に逮捕される可能性があります。逮捕後は勾留されて最大23日間身体拘束が続き、最終的には起訴される場合があります。
これを回避する、つまり、釈放・不起訴となるためには示談を成立させることが重要です。
刑事事件における示談とは、被疑者が一定の示談金を支払う代わりに、被害者が被疑者を許すという当事者間の合意をすることです。
検察官が起訴・不起訴の判断をする際には、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況」(刑事訴訟法248条)、すなわち、その犯罪をめぐる諸事情が考慮されます。
示談の成立は「犯罪後の情況」として諸事情のひとつに過ぎませんから、示談が成立したからといって、必ず不起訴となるとは限りません。
しかし、示談の成立により、①被疑者が謝罪し、被害者がこれを受け入れた事実、②被害が金銭的に回復した事実、③被害者が被疑者の処罰を望まなくなった事実が明らかになりますから、検察官の判断を不起訴の方向に傾かせる力があるのです。
暴行罪や被害の程度が軽い傷害罪では、逮捕後、早期の示談成立によって、身柄拘束期間が満期となる前に釈放されるケースもあります。
また、示談の成立によって、公開の法廷で裁かれる正式起訴ではなく、書類上の裁判手続(略式手続)だけで罰金刑を受ける略式起訴にとどめてもらえるケースもあります。
正式起訴され、公判廷での裁判を受ける場合でも、裁判官の量刑判断にあたって、示談の成立は被疑者に有利な事情として考慮されますから、刑が軽くなることが期待できるのです。
5.まとめ
示談交渉については、刑事弁護、示談に精通している弁護士に委ねるのが望ましいといえます。理由は以下の通りです。
- 被害者が加害者と接触するのを拒み、示談交渉が始められない可能性がある
- 弁護士以外の方は、示談交渉に慣れておらず、示談交渉の進め方がわからない
- 重い傷害の場合、示談金(損害賠償金)の金額をめぐって対立する可能性があり、民事責任に関する法的知識も不可欠
- 当事者同士で示談交渉を始めたとしても、話がまとまらず、更なるトラブルに発展する可能性がある(そうなると、被疑者にとって、却って不利な事情として考慮される危険があります)
以上より、示談交渉は、弁護士に依頼することをお勧めします。
刑事事件は自分とは無関係だと思っていても、酔った勢いなどでつい相手に暴行を加えてしまい、突然、被疑者になってしまう可能性があります。
そのような状況に直面した場合、弁護士にすぐ相談すべきです。
暴行罪や傷害罪の弁護なら、刑事事件に詳しい泉総合法律事務所の弁護士にご相談ください。
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